酢酸セルロースの
生分解性について

セルロースは植物が作り出す天然高分子であり、地球上に最も多量に存在するバイオマス資源である。セルロースを化学的加工によって利用するきっかけとなったのは1833年フランスBraconnotによる硝酸セルロースの発見であり、さらに樟脳を30%程度混合し可塑化することで得られたセルロイドが約150年前に世の中に送り出された世界初の人造プラスチック材料である。

セルロイドは発火しやすい性能をもつため、1929年に燃えにくいセルロース誘導体として酢酸セルロースが開発された。石油系プラスチックが台頭し代替されるまでの間、酢酸セルロースは写真・映画のフイルム、メガネのフレーム、繊維、包装容器等プラスチック材料として産業界における重要な地位を占めた。

1.酢酸セルロースとは

酢酸セルロースは木材繊維や綿花等、非可食性植物由来のセルロースを原料とし、その水酸基を酢酸で化学修飾(エステル化)することで得られるバイオマス素材である。図1にその構造式を、表1にその一般物性を示す。

図1 酢酸セルロースの構造式
酢酸セルロースの構造式
表2 酢酸セルロースの一般物性値
項目 性質 単位
形状 白色のフレークス状  
比重(25/4℃) 1.33〜1.36 -
嵩密度 0.25〜0.52 kg/l
ガラス転移温度 160〜180
融点 230〜300
比熱 1.34 kJ/kg·K

セルロースの水酸基の化学修飾度により酢酸セルロースの特性は変化する。工業的には

  • ほぼ全ての水酸基を酢酸で修飾した三酢酸セルロース(トリアセテート:TAC)
  • 一部の水酸基を残存させた二酢酸セルロース(ジアセテート:DAC)

が多量に製造されている。一般的に酢酸セルロースは以下のような特徴を有する。

  • 難燃性で融点(熱軟化点)が230℃程度と高い
  • 電気伝導度が低く絶縁性を持つ
  • 適度な親水性を持つ
  • 耐溶剤性、耐薬品性を持つ
  • 紫外線に対する耐性が強い

現在は工業的製法で製造された酢酸を原料としているため、酢酸セルロースのバイオマス度は約50~60%である。バイオ原料由来の酢酸を使用することでバイオマス度100%の達成も可能である。

2.酢酸セルロースの生分解性

酢酸セルロースは高い生分解性を持ち、土中や海水中で生分解されることが数多くの文献で報告[1][2][3][4]されている。概して言えば、酢酸セルロースが水との加水分解反応やエステラーゼの生分解により「セルロース」と「酢酸」に分解され、その後、セルロース主鎖がセルラーゼにより生分解(切断・分解)され、最終的に水と二酸化炭素になる。水や二酸化炭素は木材や綿花を含む植物が再生し、セルロースとなる循環サイクルが成る。(図2)

酢酸セルロースの循環サイクル

図2.酢酸セルロースの循環サイクル

酢酸セルロースの生分解性を図3に示す。汎用樹脂が数10年~数100年かけて分解するのに対し、酢酸セルロースは自然界(堆肥、土中、海洋等)で圧倒的に早く分解することが判る。

各成形品の自然界で分解する時間

図3.各成形品の自然界で分解する時間

(各種文献[3][5][6]を元に独自に作成)

当社製品は、日本バイオプラスチック協会(JBPA)よりバイオマスプラスチック(バイオマスプラ:BP)及び生分解性プラスチック(グリーンプラ:GP)の認証を取得している。また国際的な認証機関であるTÜV AustriaにおけるOK compost(INDUSTRIAL)認証の生分解性評価に合格(図4)し認証を取得している。OK Marine認証についても、生分解性評価に合格し、認証を取得している。

工業コンポスト中での酢酸セルロースの生分解

図4.工業コンポスト中での酢酸セルロースの生分解

3.酢酸セルロースの海洋生分解性

近年、大きな社会問題の一つとして海洋プラスチックがあげられる。不適切な海洋への廃棄や、漁具のように意図的でなく流出するもの、風雨による海洋への流出など、世界中で年間数100万トンのプラスチックが海洋を漂っており[7]、それが生態系に悪影響を与えるという問題である。上記したように、酢酸セルロースは石油系樹脂と比較し、高い生分解性を有しており、海水中でもその生分解性を発現する。

当社では酢酸セルロースの分子構造を変化させることで、従来製品の機能や品質を保持したまま、海水中での生分解性を従来の2倍近くまで高めた新たな酢酸セルロース「CAFBLO®(キャフブロ)」の開発に成功した。これらの海水中の生分解性を図5に示す。

分子構造のコントロールにより、生分解の速度を調整することが可能であることも判ってきており、今後、様々な用途への展開を図ることで、海洋プラスチック問題解決への一助となれば幸いである。

酢酸セルロース(新製品、従来品)およびポリ乳酸の海洋生分解性の図

図5.酢酸セルロース(新製品、従来品)およびポリ乳酸の海洋生分解性

文献[6]とASTM D6691に基づき、一般財団法人 化学物質評価研究機構で行った生分解性試験のデータを併記)

4.酢酸セルロースの用途

生分解性を有する上記の酢酸セルロースは、成型方法の観点から2つの使用方法がある。

  • 溶剤に溶解しての、湿式・乾式での成形加工
    酢酸セルロースは特定の溶剤に可溶であり、DACは乾式紡糸により衣料用繊維や濾過フィルターに使用される。
    TACもフイルム状もしくは中空糸状に成型され、液晶用光学フイルムや濾過膜等に使用される。
  • 溶融による成型加工
    酢酸セルロースは可塑性が乏しく単独では熱成型が困難である。そのため、可塑剤と混合され溶融成型加工に供される。古くよりメガネフレームや櫛といった、人体に接する用途に使用されている。当社グループのダイセルミライズ株式会社において、射出成型用ペレットとして、フタル酸エステル系可塑剤を使用した「アセチ®」と欧州等で始まっている環境規制に対応した非フタル酸系可塑剤を使用した「セルブレン®EC」を製造している。

5.今後の展開

酢酸セルロースは、他の生分解性プラスチックとは異なり、石油系樹脂が台頭する以前から使用されていた。廉価な樹脂に代替されなかった用途は、酢酸セルロース固有の特徴が認められていると考えている。すなわち、単純に石油系樹脂と同等の用途を追求するだけでなく、酢酸セルロースであるからこそフィットする用途を新たに見出していくことができると考えている。

併せて、社会的な関心の高まりとともに、今まで以上に幅広い用途にバイオマス由来の生分解性プラスチックとして適用させていく必要がある。そのためには、様々な熱成型方法に対応させなければならず、新たな可塑剤や流動性改良剤の開発に加え、樹脂物性のバリエーション向上のために、他の生分解性プラスチックとのコンパウンド等も検討している。

これらに加えて、生分解性プラスチックに対する人々の認識や理解度向上のための政策的取り組みも必要と考える。生分解性プラスチックを正しく理解し、正しく使用し、適切にリサイクルすることが、循環経済(サーキュラーエコノミー)の実現に重要となる。企業の努力、政府の支援、人々の理解の上に、地球規模の環境問題の解決策が見いだされるものと考える。当社としても酢酸セルロースをはじめとして様々な素材の開発によって、社会と人々の幸せのために貢献していきたい。

参考文献

  • [1]Sakai K, Yamauchi T, Nakasu F, Ohe T (1996). “Biodegradation of Cellulose Acetate by Neisseria sicca”. Bioscience, biotechnology, and biochemistry 60 (10): 1617-22.
  • [2]Buchanan CM ,Gardner RM, Komarek RJ (1993). “Aerobic biodegradation of cellulose acetate” Journal of applied polymer science 47 (10): 1709-19.
  • [3]WWFジャパンHP https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html
  • [4]「セルロースアセテートの化学的分解性および生分解性に関する研究」、平成13年度入学 大学院博士後期課程 物質生産工学専攻 機能性高分子化学講座 論文内容趣旨”. 山下洋一郎 (2005)
  • [5]U.S. National Park Service; Mote Marine Lab, Sarasota, FL and “Garbage In, Garbage Out,” Audubon magazine, Sept/Oct 1998
  • [6]New Aspects of Cellulose Acetate Biodegradation, Dirk HÖLTER,Philippe LAPERSONNE, 2017_ST13
  • [7]経済産業省 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書
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