特集

人生100年時代に期待されるQOL(生活の質)向上 という価値を生むダイセルのソリューション

人生100年時代に期待される
QOL(生活の質)向上という
価値を生むダイセルの
ソリューション

中期経営計画「3D-Ⅲ」では、メディカル・ヘルスケア分野への注力を掲げて、積極的な事業展開に取り組んできました。2018年度は、遺伝子治療薬など革新的な医薬品の開発への貢献が期待できるドラッグデリバリーシステムの開発や、グローバルな市場展開の足掛かりとなる医薬品製造受託会社の買収、加えてゲノミクス企業の買収など、大きな動きがありました。本特集では、それぞれの分野でキーマンとなる担当者に、事業の背景や展望について語ってもらいます。
※ QOL=Quality of Life:物理的な豊かさだけでなく、精神面も含めた生活の質のこと

最先端医療

次世代医薬品の投与法を確立するために

 当社が自動車エアバッグ用インフレータなどの火工品事業で培った技術を応用して、医療用の薬剤投与デバイス(パイロドライブジェットインジェクター)の開発を進めています。このデバイスには注射針がなく、火薬の燃焼エネルギーを利用した駆動源により、充填した薬剤を高速のジェット流として射出し、体内へ注入する新しい仕組みを備えています。
 実験レベルでは、従来にはない興味深い知見を得ていて、このデバイスを用いて遺伝子などを投与すると、効率よく細胞の中に送り込むことができました。
 遺伝子治療薬など次世代の医薬品は、細胞の中に送り込まれて初めて機能しますが、分子が非常に大きく、細胞内へうまく送り込むことが難しかったため、期待する効果が得られないことが課題でした。このデバイスはこの課題を解決できる新しいドラッグデリバリーシステム(DDS)技術となることが期待されています。
 最初のステップとして、次世代の遺伝子治療薬やがん治療薬などの開発で使う「アクトランザ™ラボ」を開発し、複数の大学との共同研究や製薬企業への提供を開始しました。そして次のステップとして、ヒトに使えるデバイスの開発にも着手しています。大学や製薬企業へのアクトランザ™ラボの提供で、新たな医薬品が開発されることや、新しいドラッグデリバリーシステムの可能性が広がることを期待しています。

アクトランザラボ

このデバイスは、2009年頃に構想され基礎的な開発が進められました。2016年には医療関連事業戦略室が新設され医療用デバイスとして本格的な開発が開始されました

アクトランザ™ ラボの特徴

コントロールユニット
コントロールユニット

握りやすさに配慮したデザイン

アクチュエーター
アクチュエーター

薬剤を射出するための駆動源。火薬の燃焼エネルギーを圧力に変換する

コンテナユニット
コンテナユニット

薬剤を充填する容器。容器先端部の微細ノズルから射出される

遺伝子を投与したマウス皮膚組織

遺伝子を投与したマウス皮膚組織

アクトランザ™ラボを用いてクラゲ由来の蛍光発光遺伝子を投与すると、細胞内に遺伝子が送り届けられ、その遺伝情報により蛍光タンパク質が生産される。写真の緑色部はこのタンパク質に由来する蛍光発光。注射針で同じ遺伝子を投与した場合は、細胞内には入らず、緑色蛍光は観察されない

山本 由理
健康に生きる

超高齢化先進国、日本から

 薬が喉にひっかかるなどして飲みにくい、あるいはそう感じるだけでも服薬は敬遠されがちです。特に小児や高齢者は食物を飲み下す能力が低く、服薬時に気管に入ってしまうことがあり、そのリスクを出来るだけ低くすることが望まれます。そういった背景の中、飲みやすい薬の開発は、超高齢社会において、社会的課題の解決策と言えます。
 ダイセルではこの課題に対して、錠剤の飲みにくさを解消する添加剤を開発してきました。その一つが、口腔内崩壊錠(OD錠)用の添加剤「グランフィラーD®」です。
  「グランフィラーD®」は様々な薬効成分と組み合わせて打錠することにより、唾液などのわずかな水分でも速やかに崩れ飲みやすいOD錠を作ることができます。最近では適用できる薬効成分の範囲を広げるべく、次世代の添加剤も開発中です。今後はグローバルに事業を展開していくことで、これらの優れた医薬添加剤を日本から世界に広めていきたいと考えています。
 当社は2018年10月に、錠剤や点眼薬など様々な剤形をカバーする医薬品製造受託企業Lomapharm GmbH(ドイツ)を買収し、子会社としました。この買収のメリットは大きく、当社には医薬品添加剤を使うユーザー視点が加わり、添加剤開発のさらなる進展が期待できます。また、Lomapharm GmbHにとっては、当社の技術や添加剤を活用したOD錠など、製品ラインアップを拡充できる利点があります。

口の中で崩壊する様子のシミュレーション

口の中で崩壊する様子のシミュレーション

唾液(水分)に触れると速やかに水を取り込み、クリーム状に崩壊します

Lomapharm GmbHの製造ライン

Lomapharm GmbHの製造ライン
Lomapharm GmbHの製造ライン
平邑 隆弘
岡林 智仁
生命の探索

ゲノミクスベンチャーとともに

 遺伝子に組み込まれた遺伝情報(=ゲノム)を読み取り、その情報を利用して医療や農業などに応用するライフサイエンスの分野をゲノミクスと呼んでいます。近年、この分野は解析技術の進化とともにコストダウンが進んだことで、ビジネスとして急成長しています。
当社の調査ではゲノミクス分野全体の市場規模を、世界で約160億ドルと推計しており、そのうちゲノムの配列解析に関連する市場規模は約75億ドルで、年平均成長率は約18%と試算しています。
※ 数値は2018年当社調査による

年平均 成長率

 製薬分野においては、低分子医薬品の光学異性体の分離事業でダイセルグループは世界トップシェアを持っていますが、核酸医薬や遺伝子治療の分野でも先進的なソリューションを提供しようと考えています。その取り組みの一つが、2019年1月の米国ゲノミクスベンチャー、Arbor Biosciences(正式名称Biodiscovery LLC)の買収です。
 DNA配列解析関連技術に強みを持つ同社は、とりわけアグリバイオ(農作物の遺伝子解析や微生物の同定など)の分野で定評があります。例えば、農産物のDNA配列を調べて比較することで細かな種類を特定できて生産地の推定なども可能になるので、トレーサビリティーの手段として使うことができます。
 今回のArbor Biosciences買収により、ライフサイエンスの最先端分野で研究開発を行う企業との関係を構築しつつ、光学異性体分離事業を行う当社CPIカンパニーのグローバルネットワークを利用して、医療に限らず幅広いソリューションを提供していきます。

配列解析情報の活用が期待される分野

黄色の円は、Arbor Biosciencesが特に強みを有する分野

配列解析

Arbor Biosciences

社員約20人で大半が研究者という、米国ミシガン州のゲノミクスベンチャー企業

Arbor Biosciences
Joseph M. Barendt, Ph.D.