半導体関連材料一覧シリコン窒化膜 選択的吸着材 ナノひっつき虫™

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ナノひっつき虫™とは

ダイセルのナノひっつき虫™は、シリコン窒化膜に極めて強い親和性を示すセルロース誘導体を主成分とする選択的な吸着材です。鍵となるセルロース誘導体は、天然由来のセルロースを原料にダイセルの合成技術によりカスタマイズしたオリジナルなセルロース。シリコン窒化膜表面に特異的に吸着し、セルロース薄膜を形成します(選択的吸着作用)。

シリコン窒化膜に特異的に吸着すること、それはシリコン酸化膜、シリコン窒化膜、窒化チタンなど様々な絶縁膜、金属膜が使われる半導体製造プロセスにおいて、シリコン窒化膜「だけ」に選択的に樹脂膜を形成できることを意味します。性状の異なる金属膜とシリコン窒化膜で、どちらか一方に樹脂膜を形成することはこれまでも知られていましたが、性状が似通ったシリコン酸化膜とシリコン窒化膜で、シリコン窒化膜だけに吸着し樹脂膜を形成する材料の前例はありません。

例えば、シリコン窒化膜上に形成したセルロース薄膜は、バッファードフッ酸(BHF)やフッ酸(HF)によるエッチングからシリコン窒化膜を保護する、保護膜として機能することが分かりました(展開例: BHFによるエッチング)。シリコン酸化膜には作用しないため、エッチングプロセスの生産性に悪影響を与えません。

吸着処理は瞬時に完了します。基板を水溶液やアルコール溶液に調製したナノひっつき虫で処理させるだけ。処理方法は、ディスペンス、ディッピング、インクジェット、スピンコートと方法を選びません。乾燥・加熱処理は不要なので、ウェットエッチング工程であれば、「そのまま」次のプロセスに移ることも可能です。本ページでは、ナノひっつき虫™の選択的吸着作用や具体的な活用例について紹介しています。

選択的吸着作用

各材料の表面自由エネルギーから素材間の吸着自由エネルギー(吸着のしやすさ)を見積もることが可能です。シリコン酸化膜とシリコン窒化膜に対する吸着自由エネルギーを、ナノひっつき虫™に添加したセルロース誘導体(DC01)と市販の樹脂で比較しました(下図)。下図からは、シリコン酸化膜・窒化膜に対する吸着自由エネルギーがマイナスとなる、シリコン酸化膜・窒化膜に吸着しやすい樹脂自体珍しいことが分かります。セルロース誘導体だからといって、吸着するわけでもありません。一方、ダイセルオリジナルのセルロース誘導体(DC01)は、シリコン酸化膜はほどほどに、シリコン窒化膜に対する吸着自由エネルギーが大きく負になっていることが分かります。この差が窒化膜特異的吸着の要因です。

この差がどこから来るのか?ダイセルは、合成化学・計算化学を駆使した解明を進めています。

シリコン窒化膜への吸着力は極めて強く、ちょっとやそっとじゃセルロース薄膜は取れません。シリコン窒化膜を溶かすエッチング液(BHF110)を使って、窒化膜表面を溶かしてもセルロース薄膜は窒化膜の表面に残っています。その様子をX線光電子分光法(XPS)によって確認することができました。下図の通り、セルロース誘導体(DC01)に対応する結合ピークが、BHF110のエッチング処理後にも残存することが分かります。一方、シリコン酸化膜の場合は、セルロース誘導体に対応するピークは完全に消失しており、セルロース薄膜が残っていないことが分かります。

セルロース薄膜の剥離方法

また半導体製造プロセスにおいては、「立つ鳥跡を濁さず」が大原則。シリコン窒化膜に吸着したセルロース薄膜は、半導体製造プロセスで汎用されるSC1(超純水:アンモニア水:過酸化水素水)やSC2(超純水:塩酸:過酸化水素水)により剥離可能です。SC1処理を行った後の基板のX線光電子分光スペクトルを見ると(下図)、セルロース誘導体(DC01)に対応する結合ピークが消失しており、セルロース薄膜は剥離できていることが分かります。

材料の展開先

BHF・HFエッチングの選択性向上

シリコン窒化膜上に選択的にセルロース薄膜が形成される特徴を活用すると、バッファードフッ酸(BHF)やフッ酸(HF)などのエッチング液からシリコン窒化膜を保護する、保護膜として機能することが分かりました(下図)。目的とするシリコン酸化膜のエッチングには悪影響を与えない為、半導体製造プロセスの生産性はそのままに、副反応であるシリコン窒化膜のエッチングを抑制します[1,2]。つまりナノひっつき虫™を活用することで、①既存のエッチング液が使え、②生産性も維持しつつ、③シリコン酸化膜とシリコン窒化膜のエッチング選択性を向上することが可能です。また、ナノひっつき虫は水系材料ですので、ウェットプロセスの既存設備をお使いいただけます。

下図は、BHF110をエッチング液として使用した時のエッチング時間とエッチング量の相関をグラフにしたものです。シリコン酸化膜には吸着しませんので、全く処理をしていない基板とナノひっつき虫™で処理したシリコン酸化膜基板の挙動に差異はありません。一方、シリコン窒化膜の結果を見ると、ナノひっつき虫™で処理をした基板が大変興味深い挙動をしていることが分かります。一般に保護膜で処理をした基板は、エッチング初期数分は全くエッチングが起こらず、保護膜消失後は未処理基板と同様のエッチング挙動を示します。一方、ナノひっつき虫™で処理をした基板のエッチングは、処理時間とエッチング量が1次の関係にあります。これは、処理時間中常にナノひっつき虫™の保護効果が機能していることを意味します。これはちょっとやそっとじゃ取れないナノひっつき虫™の特性によるものです。

詳細な実験データについては、下記論文もご参照ください。

  1. [1] (査読無) Mochida, K., Miki, T., & Teranishi, T. (2023). Selective functionalization of silicon nitride with a water-soluble etch-resistant polymer. SSRN Electronic Journal.
    https://doi.org/10.2139/ssrn.4340470
  2. [2] (査読有) Mochida, K., Miki, T., & Teranishi, T. (2023). Selective functionalization of silicon nitride with a water-soluble etch-resistant polymer. Microelectronic Engineering, 276, 112001.
    https://doi.org/10.1016/j.mee.2023.112001

その他

下記のような応用例を考えています。サンプル提供や共同研究のご提案はお問い合わせよりお願いいたします。

  • 領域選択的原子層体積(Area-selective ALD): ALDは基板の表面状態に大きく依存する成膜プロセスです。ナノひっつき虫™は簡便に異なる表面状態を作り出すことができますので、ALDプロセスを領域選択的に「加速」若しくは「抑制」できると考えています。
  • 化学的機械研磨(CMP): シリコン窒化膜の保護効果により、シリコン窒化膜のエッチストッパ性能向上が期待できます。

サンプル提供

下記サンプルの提供が可能です。詳細はお問い合わせ下さい。

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品番 固形分濃度
(wt%)
溶剤 粘度
(cP)
pH 金属量
DCL05 0.3 DIW 3.6 5.7 Na, K, Al, K, Ca, Fe, Li, Ti, Cr, Mn, Ni, Cu, Zn, Sn, Pb <1ppb
DCL07 0.3 PGME 2.2 -