前中期戦略の振り返りと成長変革を加速する新たな戦略
ダイセルグループは、長期ビジョン『DAICEL VISION 4.0』の実現に向けた第一段階として、前中期戦略『Accelerate 2025』に取り組んできました。前中期戦略では、ポートフォリオマネジメントによる事業の「選択と集中」、ポリプラスチックスとの一体化、ダイセル式生産革新の進化、サプライチェーン改革などを進め、将来成長に向けた構造改革を着実に実行してきました。その結果、構造改革は約7割まで進展し、次の成長に向けた基盤づくりは着実に前進しました。残る改革についても、2026年度からスタートした新中期戦略『Accelerate 2030』の下で着実に実行していきます。
一方で、対処すべき課題も顕在化し、前中期戦略の最終年度である2025年度は、当初掲げた数値目標の達成には至りませんでした。特に、一酸化炭素プラントでは、原料炭の変更などに伴うトラブルが発生し、業績に影響を及ぼしました。2026年度中に安定運転に向けた基盤強化を完了し、収益基盤の安定化につなげていきます。また、環状オレフィン・コポリマー(COC)第2プラントについては、需要拡大の遅れや建設費の高騰を踏まえ減損損失を計上しており、この点は経営として重く受け止めています。COCについては、医療分野や環境対応包装分野で構造的な需要拡大が見込まれることから、建設は継続し、2027年度中の稼働を目指すとともに、将来の成長に確実につなげていきます。
新中期戦略では、これまでの取り組みの成果を収益成長へ転換することに重点を置いています。基盤事業でのキャッシュ創出力を強化し、成長牽引領域および次世代育成領域へ経営資源を重点的に投下することで、安定収益と将来成長の両立を図ります。また、外部環境の変化が一段と大きくなる中で、さらなる構造改革、資本効率の改善、生産革新を基盤としたモノづくりの進化を通じて、変化にしなやかに対応できる企業体質を構築していきます。加えて、市場の変化を成長機会として捉え、成長を続ける半導体・AI関連市場に対しては、半導体材料やAIサーバー向け高機能樹脂などの製品投入を進め、需要を着実に取り込みます。
2030年度を見据えながらも、不確実性の高い環境下で実行責任を持って取り組める2028年度を重要なマイルストーンと位置付け、まずは2028年度の目標達成に向け、具体的施策の実行力を高め、収益力、資本効率、成長性を同時に引き上げていきます。
ダイセルグループの強みと社会に提供する価値
当社グループは、「価値共創によって人々を幸せにする会社」という基本理念の下、「循環型社会構築への貢献」を長期ビジョンに掲げ、「健康」「安全・安心」「便利・快適」「環境」の領域において、独自の価値創出に取り組んでいます。
当社の強みは、祖業であるセルロイドを起点に培ってきたセルロース化学、有機合成化学、高分子化学と、硝酸セルロースから発展したONE TIME ENERGY®に象徴されるユニークな技術基盤にあります。これらの技術を活かし、酢酸を起点とするアセチルチェーンや、高分子化学を応用したエンジニアリングプラスチック、さらにはONE TIME ENERGY®を活用した自動車エアバッグ用インフレータ、電流遮断器、無針注射器など、多様な事業領域において社会課題に応える価値提供を進めています。
これらの技術を社会価値へと確実につなげる競争力の源泉が、当社のモノづくりを進化させる力です。当社は、熟練オペレータのノウハウを可視化し、運転支援システムへ落とし込む「ダイセル式生産革新」を長年にわたり磨いてきました。さらに、AIを活用して進化させた「自律型生産システム」の実装を進めることで、安全・品質・生産性を一段と高い次元へ引き上げています。
加えて、この生産革新を工場や会社の枠を超えてサプライチェーン全体へ展開し、モノづくりの最適化と新たな価値創出を目指しています。新中期戦略では、まずアセチルチェーンにおいて、網干工場・大竹工場・富山フィルタートウにおけるオペレーション最適化を進めます。これにより、原料から製品までの一貫最適化を実現し、グループの枠を超えた価値共創へと発展させてまいります。
さらに、生産革新は既存プロセスの高度化にとどまらず、次なるプロセス革新を創出する起点でもあります。改善を徹底することで、重厚長大・エネルギー多消費型のプラントやGHG排出といった化学産業の構造的課題が浮き彫りになります。当社はこれらの課題に正面から向き合い、その解決を通じて循環型社会の実現に貢献する取り組みとして、「バイオマスバリューチェーン構想」を推進しています。
その実現に向けて、木材を穏和な条件で溶解しセルロースを中心とした低GHG素材を創出する技術開発に取り組むとともに、従来の重厚長大な化学プラントからの転換を目指す「マイクロ流体デバイス」や、CO2をCOへ還元し原料化するナノダイヤモンドによる「太陽光超還元®」などの開発を進めています。これらは、エコロジーとエコノミーの両立を可能とする革新的な技術です。
これらの取り組みは、当社単独で実現できるものではありません。大学やパートナー企業との共創を通じて革新的な技術開発を推進し、新中期戦略においても着実に実行することで、2030年度以降の社会実装を見据えて取り組みを進めてまいります。
当社グループは、こうした技術基盤、モノづくり力、そして共創の力を掛け合わせることで、社会やお客様の課題に深く入り込んだユニークなソリューションを創出し続けてまいります。これこそが、当社グループの持続的成長の源泉です。
技術開発から事業創出へ、価値共創を加速するR&D変革
私たちが目指すのは、優れた技術や素材を生み出すにとどまらず、それらを社会やお客様の課題解決につなげ、新たな価値を創出する会社です。その実現に向け、R&Dのあり方も進化させていきます。
これまでも当社のR&Dは、お客様起点で価値創出に取り組んできました。しかし、良い技術を生み出すだけでは、持続的な企業価値向上にはつながりません。今後は技術起点に加え、事業起点でも研究開発を進め、市場ニーズや事業性を踏まえながら、事業成長を支える技術の創出を目指します。
そのために当社では、業界の技術トレンド、事業戦略、市場投入までのマイルストーンを一つの時間軸で整理する「ロードマップ型」のテーマ設定を進めています。探索段階から事業との接続を意識し、市場が求めるタイミングで社会実装することで、研究成果を事業収益へ着実につなげていきます。
また、研究開発テーマは、短期的な収益創出と将来の成長機会の確保を両立するため、短中期アイテム30%、探索研究20%、長期テーマ50%の考え方に基づき運営し、足元と2030年度以降の成長を両立するポートフォリオを形成しています。さらに、全社委員会とステージゲート制度の下でテーマを一元管理し、限られた経営資源を成長領域へ重点配分しています。
特に短中期アイテムでは、研究開発、生産、エンジニアリング、事業部門が一体となり、探索から事業化までを一気通貫で推進しています。これにより、研究開発部門も技術の実現だけでなく、事業性や収益性を起点にテーマを捉える意識を高め、研究成果を事業成果へ結び付けます。また、外部パートナーとも協業し、事業化のスピードと確度を高めていきます。
R&Dを技術開発の場から事業開発の起点へと進化させることで、素材提供型企業から価値共創型企業への転換を加速します。そして、事業目標の達成を追求するとともに、その先に生まれる「良い想定外」の成果を新たな成長機会へつなげ、中長期的な企業価値向上を実現していきます。
持続的成長を支える変革と守るべき価値観
当社グループには、長年培ってきた生産技術やコストダウン手法、テクニカルサービス、マーケティング力に加え、課題に愚直に向き合い、目標を定めれば最後までやり抜く企業文化があります。こうした強みは、変化の激しい時代においても、当社グループが持続的に成長していくための重要な土台となっています。
一方で、仕事の進め方やルールは、昔から続いているという理由だけで守るものではありません。市場や事業環境の変化に対応するためには、目的に照らして最も有効な方法へ変えていく必要があります。投資判断についても、一度決めたから進めるのではなく、収益性や環境変化を踏まえて継続的に見直していきます。
また、リスクは発生してから対応するのではなく、兆しを早く捉え、先手を打つことが重要です。基盤、成長牽引、次世代育成、変革という各領域の役割を明確にし、メリハリを持って経営資源を配分していきます。
その一方で、時代が変わっても決して変えてはならないものがあります。「価値共創によって人々を幸せにする会社」という基本理念、安全・品質・コンプライアンスを最優先する姿勢、そして100年以上にわたり培ってきたダイセルらしい技術とモノづくりです。
これらを支えるのは「人」です。当社グループが大切にしてきた「人間中心の経営」とは、一人ひとりの成長と挑戦を会社の成長につなげる考え方です。戦略や技術を実行し、価値に変えるのは人であり、組織は人によって支えられています。この考え方を土台に、次の成長を牽引するリーダー人財の強化に取り組んでいきます。
変革を牽引するリーダー人財の強化
変革を進める上で鍵となるのはリーダー層の強化です。経営層が方針を示すだけでも、現場が個別に動くだけでも、組織の力は十分に発揮できません。経営層と現場の間に立つリーダー層が、方針や戦略を理解し、自らの言葉で伝え、現場の行動に落とし込むことが重要です。
リーダー層は、現場に近いからこそ変化の兆しを捉えることができます。お客様の声や市場環境の変化をいち早く捉え、危機感を社内に発信し、必要な提言や判断につなげていく。そうした感度の高いリーダーを育てることが、これからの組織には不可欠です。
当社では、シニア人財の活躍と若手抜擢の両輪で人財登用を進めており、経営会議レベルの議論にも中堅リーダー層の参加を求めています。経験の機会を増やすことで、リーダー層の対応力とスピード感は確実に高まると考えています。
事業は、必ずしもセオリー通りに進むものではありません。何が起こるか分からない時代だからこそ、論理だけでなく、現場で得られる感覚や変化を捉える勘も大切にしながら、リーダー層が自ら考え、動ける組織にしていきます。そして、長期ビジョンで掲げた、垂直統合に加えて水平での連携も広げ、サプライチェーン全体で価値を高めていくOperation-Ⅲ(OP-Ⅲ)も、こうしたリーダー層の力によって具体化していくものだと考えています。
また、当社では「バッドニュースファースト&ファスト(Bad News First & Fast)」を徹底しています。小さな異変やリスクの兆候を速やかに経営へ共有し、悪い情報ほど早く把握して迅速な意思決定につなげる。そのような組織づくりを進めています。以前よりも、トラブルやリスク・課題発生に関する情報が早く上がるようになってきており、これは組織が健全に機能し始めた証しであり、必要な変化だと受け止めています。
私たちはサプライチェーンの中間に位置する企業として、川上・川下の双方と対等な関係を築き、それぞれの価値を掛け合わせながら、サプライチェーン全体の価値向上を目指しています。
基本理念に掲げる「価値共創」の実現には、立場を超えて忌憚なく対話し、関係者を巻き込みながら価値を高めていくリーダーと、風通しの良い組織風土が不可欠です。人を育て、組織を変え、変革を実行できる力を高めていきます。
資本効率の追求とガバナンス強化
当社グループでは、重要な経営指標としてEBITDA、ROE、ROIC、DOEを重視しています。2025年度決算では、減損損失の計上などによりROEが低下しました。その背景には、投資案件が当初計画通りに進捗しなかったことがあります。これは、経営として重要な課題であると認識しています。
今後は、事業環境の変化に応じて投資回収計画を継続的に見直し、必要な挽回策を速やかに講じます。投資前のリスクアセスメントも強化し、案件を早期段階から取締役会へ上程するとともに、社外取締役の客観的な意見も踏まえながら、事業計画・リスク想定を厳しく評価し、必要に応じて計画を補正することで、投資の質を高めてまいります。
こうした投資判断を支える基盤として、当社では取締役会と執行の役割を明確に分離しています。取締役会は中長期的な企業価値向上の観点から重要な経営判断と監督に注力する一方、執行は機動的な事業運営と業績責任を担う体制を構築しています。こうした実効性の高いガバナンス体制を基盤として、資本効率向上に向けた施策を着実に実行してまいります。
併せてスーパーアセットライト化に向け、棚卸資産回転日数を大幅に削減していきます。品目統廃合、地産地消、リードタイム短縮、生産・販売・在庫の管理高度化、AIを活用した生産計画最適化などを通じて、資本効率のさらなる向上を実現します。
新中期戦略では、2030年度にROE15%以上、ROIC10%以上、EBITDA1,700億円以上を目指します。また、DOE5%以上かつ総還元性向60%以上をターゲットとし、成長投資と株主還元の両立を図ります。成長のために投資する一方で、投資の成果を厳しく見極め、資本効率を高め続ける企業体質へ転換します。
変化そのものを、新たな競争力にする
市場や技術、社会ニーズが大きく変化する中、私たちはその変化を成長の機会と捉え、自ら変革を加速しています。従来のように、営業、R&D、テクニカルサービス、生産などの機能がそれぞれ個別に動くのではなく、機能を超えて一体となり、お客様と共に課題を見つけ、解決策をつくる体制へと変革を進めています。私たちは、素材を提供するだけでなく、社会やお客様の課題に深く入り込み、「この会社と一緒に課題解決に取り組みたい」と思っていただける企業を目指します。
そして、ステークホルダーの皆様との対話と共創を通じて新たな価値を創出し、課題解決型のモノづくり企業として進化することで、持続的な企業価値向上を実現してまいります。そのために、私たちは残る改革をやり切り、収益成長へ転換し、資本効率を高め、人と組織の力で変革を実行します。変化そのものを競争力へ変え、ダイセルグループの次の成長を実現してまいります。