「自律型生産システム」は、東京大学と共同で開発したダイセル独自のAIを活用しています。まずAIを活用する上で重要となるのが、元となるデータの量と精度です。基盤となるダイセル式生産革新により、網干工場に関するものだけでも840万件にも及ぶ膨大な熟練オペレータのノウハウが顕在化され、生産の安定化が実現できていたため、データ自体の信頼性の高さが強みの一つでした。
新たに開発した独自のAIは、過去データから答えを導く「帰納法」と、原理原則から結果を導き出す「演繹法」を両立したロジックが大きな特長です。
開発段階ではディープラーニングといった従来のAI手法を用い、過去データから帰納的な計算も行いましたが、品質指標の予測精度はわずか60%程度であり、変数が多岐にわたる化学プラントにおいては、その数字は十分な精度とは言えないものでした。
そこで「自律型生産システム」では「帰納法」と「演繹法」を両立したロジックで、PCM(最適運転条件導出システム)とAPS(高度予知予測システム)という2つの独自のAIアプリケーションを開発しました。品質やコストなどの変化の「結果」とそれらの「原因」との複雑な因果関係、約20年蓄積してきた生産運転データ、そしてリアルタイムのデータと化学工学の原理原則とを瞬時に組み合わせて演算し、高精度で最適解を導きます。
また、ダイセル式生産革新によって培ってきた総合オペラビリティスタディを活用することで、計算負荷が低く、既存のAI手法と比べて少ない学習データでも精度の高い予測を可能とする演算アルゴリズムを実現しました。2つのAIアプリケーションで構築した「自律型生産システム」はダイセル独自のシステムであり、特許も取得しています。
トレードオフが成り立つ複数の品質、
コストの関係から最適解を導く
安全・品質・生産量・コストの指標をリアルタイムで予測し、それぞれの指標を最大化するための最適な運転条件を導き出します。その時々の状態をふまえて、生産の効率を向上させることで、コストダウンを可能にしました。
品質やコストなどの変化の「結果」とそれらの「原因」との複雑な因果関係でどのようなバッドパターンが起こるかが予めに判っているからこそ、前工程で起きた変化によって将来どれだけの影響を及ぼすか(品質が悪化するか、など)を予測して、後工程でのマテリアルバランス、ヒートバランスなどの生産条件を変えることでリカバリーする指示を出します。より川下の、後工程が求める状況に応えるために、自工程では何をするべきかを考えることができるのです。
実証テストでは、設定した品質指標の予測精度は 90%以上であり、「帰納法」だけで計算した60%程度を大きく上回る結果を得ています。
プロセス、設備の変調に起因する
細かな変動抑制を次工程で完結させる
PCMで計画した運転条件に沿って生産を行う中で、機器の故障や環境の変化といった不測の事態により、計画からズレが生じる場合があります。そのズレを抑えるため、APSで予兆を検知して運転条件を常に修正し、計画通りに運転できるようにします。発生する異常に対して、形式知化したノウハウを知識ベースとして活用したAIを用いて、製造プロセスのデータから予兆を早期に捉え、その原因までを推定するシステムです。
運転のばらつきに対してもより高感度で気づき、早く防止していくことが求められます。従来は、プラント工程内の異常が判明してからしか対応できなかった事象に対しても、異常が顕在化する前から対応できるようになりました。
実証テストでは、変調の原因を100%予測し、誤ったタイミングでの検知はわずか0.03%に抑えられました。
「自律型生産システム」の導入により、製造現場の対応は「事後対応」から「予防対応」へと変化します。
「自律型生産システム」の導入前は、マネージャーが事後対応に追われ、本来担うべき役割に十分な時間を割くことができませんでした。しかし導入後は、後追い業務が減少し、戦略や戦術に関する意思決定に、より多くの時間を充てられるようになりました。
これは、決して、本来負うべき重い責任を上長が部下に負わせることではありません。
仮に導入前後で同じ変調が発生した場合、導入前はマネージャーが意思決定者でしたが、導入後は運転班長が判断を担います。
変調が起きてから時間経過とともに影響が拡大し、意思決定の責任も重くなりますが、「自律型生産システム」により、これまでになく早い段階で変調に気づき適切な対応が可能になります。影響が軽微な段階で判断できるため、運転班による判断とアクションが可能になります。その結果が、権限委譲という形になるのです。
また、変調が顕在化する前に異変を検知できるため、人による運転状況の監視や予測などの必要が減り、現場作業者の負荷が劇的に軽減されます。
さらに、変調要因と対応策が提示されることで、従来は管理職が担っていた意思決定の前段階でオペレータが早期に対応できます。その結果、判断から対応までの時間短縮につながります。
部課長には余力が生まれ、より創造性の高い仕事へのシフトが可能になります。
オペレータの作業負荷も低減され、トラブルの影響が小さい段階でアクションを起こすサイクルが回ることで、許容範囲内でのリカバリー経験を積むことができ、次世代人材の育成や、現場のモチベーションの向上になります。
こうした製造現場での変革は社内だけでなく、社外に対しても有効に働きます。
顧客へのレスポンスのスピード向上、在庫の削減、SQDC(安全・品質・納期・コスト)のバランスがとれた安定した生産を支えます。