プロジェクトストーリー

研・販一体で市場シェア拡大を目指せ!

Project Member
  • 奥山 友紀

    マテリアルSBU ケミカルBU
    ケミカルマーケティング部

    奥山 友紀

    2016年入社 政策科学部卒

  • 文岡 亮斗

    マテリアルSBU 研究開発グループ

    文岡 亮斗

    2019年入社 
    総合理工学研究科 繊維学専攻修了

※所属・役職は取材時点のものです。

chapter 01 最終製品まで視野に入れ、
サプライチェーン全体を分析。

2021年10月、ダイセルで新しいプロジェクトが始動しようとしていた。その名も「MT(マッチングチーム)4」。要は、研究開発部門と販売部門がより強固かつ密な連携をとって一体化した活動を展開することにより、一層の市場シェア獲得をねらうという新しい取り組みである。
そのMT4のメンバーにアサインされたのが、市場につながる最前線を担うマーケティング担当の奥山と、モノづくりを担う研究開発担当の文岡だった。重点ターゲットとして設定したのは、PPF(※1)向けのTPU(※2)マーケットに供給するPCL。PCLとは「Polycaprolactone polyol(ポリカプロラクトンポリオール)」の略称で、ダイセルは日本で唯一PCLを生産するメーカーであり、世界シェア2位を誇る。
chapter 01
PCLを素材にTPUが作られ、TPUからPPFが作られる。従来の販売戦略では、直接の顧客であるTPUメーカーだけに目を向けていたが、今回のMT4では、最終製品であるPPF市場まで視野に入れてサプライチェーン全体を分析。その上で、より大きなマーケットが獲得できるよう、チーム全体で働きかけていく戦略だ。
chapter 01

※1)PPF(Paint Protection Film)=クルマの車体をキズなどから守る保護フィルム。

※2)TPU(Thermoplastic Polyurethane)=ポリウレタン系熱可塑性エラストマー。

chapter 02 これまで感じたことのなかった
視野の広がりを実感。

PPF市場についてまったく知見のなかった奥山は、まず情報収集からスタート。全世界規模でどういうプレイヤーがいて、それらがどうつながっているかというサプライチェーン調査に始まり、市場の需要数量、拡販のポテンシャル、成長性などについて分析を進めた。ただしどれも表には出てこない情報であるため、社内外のあらゆるネットワークを駆使して、独自調査を展開。また、PPFという製品の特性や製造プロセス、今後の課題など技術的な情報については、社内の開発担当を頼りに収集に努めた。さらには、直接の顧客となるTPUメーカー、最終製品を作るPPFメーカーまでネットワークを伸ばし、直に情報をヒアリングした。
かつてここまで最終製品について深掘りした調査を実施したことがなかったため、奥山にとっては非常に新鮮な試みとなった。と同時に、これまでのマーケティング活動では感じたことのなかった視野の広がりを感じ始めていた。
chapter 02
chapter 02

chapter 03 ダイセル製PCLの持つ特性と
最終製品の機能とのつながりを解明。

一方、研究開発の文岡は、PCLのスペシャリストではあったものの、奥山と同じくPPFについては知見を持ち合わせていなかったため、まずは既存技術の把握から開始した。特許や文献レベルの技術調査、上市されているPPFフィルムを入手しての使用原料の確認などを通して、PPFの物性を把握。ダイセル製PCLの持つ特性が、最終製品であるPPFにおいてどう機能しているかをつきとめ、結論としてPPF用のTPUにはダイセル製PCLが適していることを明らかにした。
奥山と文岡は、かねてよりつきあいのあったTPUメーカーを訪問し、それらの分析データを一通り説明。すると、想像以上に興味を示していただき、それが両社間での技術交流が深まるきっかけとなった。そこから、より良いPPFを作るためのTPUと、そのために必要なPCLについて、互いに情報を提供し合い、意見交換しながら模索していくような信頼関係が醸成された。
chapter 03
chapter 03

chapter 04 TPUの製造レシピを創出する
共創プロジェクトが始動。

TPUメーカーとのそうした関係はほどなく、「PPF向けTPUの改良品の創出」という具体的な共創プロジェクトへと発展した。TPUメーカーから具体的な要求をヒアリングし、それに対して最適と思われる自社品番を提供しながら、TPUレシピの検討にTPUメーカーと一緒になって取り組む日々。「〇年〇月までには市場に出したい」という締め切りに追われるかたちで、文岡は、仮説を立てては提案し、できたTPUのサンプル品を評価しては修正して仮説を立て直すというPDCAサイクルを高速でまわしていった。奥山もマーケティング担当の立場から議論の場に参加。まさに研・販一体態勢で取り組んだ。そのかいあって最終的には、ダイセルとTPUメーカー両社が目指していた性能を満たすTPUを確立するに至った。プレッシャーはもちろんあったが、何より顧客側の高いモチベーションを肌で感じながら、「ともにつくりだす」というかつてない共創のありようが、奥山と文岡の背中を強く押し続け、ゴールへと向かう情熱を支えた。
chapter 04
chapter 04

chapter 05 研・販一体の市場攻略が奏功し、
新規の大手顧客獲得に成功。

ここで一区切りと考えた奥山は、プロジェクトの中間成果報告をまとめた。市場の規模、そのうちの自社のシェア、競合素材メーカー、主要TPUメーカー、およびそれらがどうつながっているかというサプライチェーンのありようなどを、粗削りながら俯瞰できる資料だ。その上で、今後どのように市場を攻めていくかという戦略構想を立案、行動し、TPUメーカー数社とも取引をスタートするに至った。かねてよりつきあいのあったTPUメーカー同様、技術交流を行いながらPCLとTPUの試作・評価を重ねて、それぞれの顧客の要望に応じて、より良いTPU製品創出に取り組んでいる。
chapter 05
競合素材メーカーをおさえて、なぜダイセルが食い込めたのか。奥山は総合評価によるものと見ている。製品の品質はもとより、ジャストタイミングで納品できる地理的なメリット、これまでに蓄積してきた市場での信頼感。そして、それらに加えて大きかったのが技術サポートだ。研究開発部門の文岡が積極的に前に出て、顧客と技術的な情報交換を行いながら、一緒にモノづくりを進めていく。そうした姿勢が評価された。研・販一体で市場を攻略しようというMT4プロジェクトのコンセプトが、みごとにはまったのだった。
chapter 05

chapter 06 さあ、次はライバルメーカーが
主権を握る欧米市場へ。

プロジェクトは今も進行中だ。奥山の動き方は、MT4始動前とはがらりと変わった。かつては、自身が「ダイセルと特定顧客との間」という「一点」に位置しているイメージだったが、今は顧客の数も増え、さらに川下のPPFメーカー、あるいはまた別につながった関係者など、さまざまな方面に多数の「点」を持つこととなり、結果、業界を「面」でとらえられるほどに視野が広がった。そこで自身はどう動いてビジネスを生み出していくか。奥山はまた一つ上のレベルで模索を続けている。
一方の文岡は、PPFという最終用途以外にも、ダイセルのPCLの特性を生かせる用途があるはずだと考え、その探求を始めている。ただしそのためには、従来のやり方では通用しない。これまで採用していなかった評価方法を試して、顧客にとって有用なデータの取得に努めるなど、PCLの新たな「価値の見せ方」に取り組んでいる。最も川下の最終用途まで視野に収めて、自社製品のプロモーションを行うという、研究開発担当としてはこれまで考えもしなかったアプローチをあたりまえのように手がけている。
彼らが次に見据えるのは、欧米市場。手ごわいライバルメーカーが主権を握る市場だが、アジア市場での成功体験を武器に、引き続き研・販一体態勢で乗り込んでいく考えだ。その成果が出るのも、そう遠くはない。
chapter 06
chapter 06