社外役員からの声

技術を価値へ、価値を未来へ -社外取締役が語る ダイセルの企業価値創造- 社外取締役 役員人事・報酬委員会委員長 浅野 敏雄、社外取締役 役員人事・報酬委員会委員 小松 百合弥

ダイセルグループは、中期戦略『Accelerate 2030』を策定し、社会課題の解決と持続的な成長を目指し、新たな挑戦を進めています。社外取締役の浅野氏、小松氏に、ダイセルグループの強みと課題、そして2030年度に向けた企業価値創造の道筋について語っていただきました。

Q. 社外取締役として数年にわたりダイセルを見てこられたお二人は、就任当初と現在で、ダイセルに対する印象をどのように捉えていますか。

浅野:
私は化学メーカーで30年以上、工場や研究所に携わってきました。ですから会社を見るときは、まず工場を見ます。工場へ行けば、その会社がどのような会社なのか、おおよそ分かるからです。ダイセルの工場を見学したときも、「良い会社だ」という印象を持ちました。整理整頓や改善活動、安全への配慮など、一朝一夕には築けない文化が現場に根付いているのが見て取れたからです。その印象は、今も変わっていません。
小松:
現場という観点では、私も同様の印象を持ちました。これまで多くの工場を見てきましたが、ダイセルは現場がよく管理され、社員の皆さんも前向きで、「きちんと管理されている会社だ」という印象を受けました。長期ビジョンも明確で、「企業の成長を社会価値の向上につなげる」という考え方の下、施策も着実に実行されていると感じています。現場の管理、社員の前向きさ、長期ビジョンに基づく取り組みが一体となっている。そこに当社の良さがあると感じています。

Q. ダイセルの競争力や強みは、どこにあるとお考えですか。技術、人、連携という観点から、可能性をどのようにご覧になっていますか。

浅野:
技術的な視点で見ると、まずセルロースを含むアセチルチェーンです。これはグローバルに見ても、当社の大きな強みだと思っています。もう一つは、人と技術を結び付ける力です。ダイセルは複数の会社が一つになって発展してきた歴史がありますが、その中で人を大切にする考え方が受け継がれてきました。そうした文化があるからこそ、多様な技術を磨き続けることができているのだと思います。
小松:
技術そのものに加えて、それを活かす仕組みも大きな強みだと感じています。例えばDXの取り組みは象徴的です。今でこそ製造現場のDXが注目されていますが、当社は20年ほど前から生産プロセスをミエル化し、データを蓄積・活用しながら、独自の生産方式を築いてきました。その知見をほかの工場や事業へ展開している点は、大きな強みだと思います。さらに、多様な技術の種を持っていることも特徴です。個々の技術だけではなく、それらをどう結び付け、新しい事業や価値へ発展させるか。その積み重ねが、当社の次の成長につながっていくのではないでしょうか。私は、そのポテンシャルを非常に高く評価しています。
浅野:
異なる技術同士を連携させることは簡単ではありません。それを実現するには、社内で密なコミュニケーションが取れていることが重要です。こうした連携ができている会社かどうかは、何か問題が起きたときによく分かります。当社は、例えば一酸化炭素プラントなどで課題が生じた際にも、技術部門だけでなく経営陣も含めて全社で改善へ取り組んでいました。そうした姿勢を見ると、日頃から横の連携ができている会社だと感じます。

Q. 「分かりづらい会社」と言われることがあるようですが、資本市場からの評価をどのように受け止めていますか。

浅野:
PBRが1倍弱に留まっている現状は、まずは市場からの評価として真摯に受け止める必要があると考えています。ダイセルのことをもっと分かってもらうための努力はもちろん重要ですが、機関投資家やアナリストは継続的に企業を分析した上で現在の評価をしているわけですから、「分かった上で、この評価がある」という視点も忘れてはいけません。そのため、市場からもっと評価していただくには、まず経営の中身をさらに良くしていくことが不可欠です。
小松:
私はPBRよりも、PERがおよそ10倍に留まっているという市場の評価を重く見ています。これは、当社の将来成長に対する期待が十分に織り込まれていないことの表れだというふうに認識しています。重要なのは、成長に向けた具体的な道筋を示すこと。安定してキャッシュを生み出す事業があるというダイセルの強みを維持・強化しながら、そこで生み出したキャッシュを成長分野へ投資し、新しい柱を育てていく。その循環を市場へ示していくことが不可欠です。
浅野:
そうですね。当社には長年培ってきた素材技術や生産技術など、多様な技術があります。しかし、それだけでは企業価値には結び付きません。それらを組み合わせ、新しい事業や新しい価値へ結び付けていくことが求められます。
小松:
投資家が知りたいのも、まさにそこです。「次の柱は何か」「その事業はどのように利益へ結び付くのか」。そうした成長ストーリーが具体的に見えてくれば、市場の評価も変わっていくはずです。『Accelerate 2030』では、新規事業や既存事業の成長をどのように実現していくのか。その道筋を明確に示していくことが重要ではないでしょうか。
浅野:
そのためには、研究、事業、テクニカルサービス、生産現場が一体となり、お客様の課題を解決する仕組みが欠かせません。過去の成功体験にとらわれず、新しい技術を取り込み、新しい市場へ挑戦していく。その挑戦が、『Accelerate 2030』の実現につながっていくのだと期待しています。

Q. 社外取締役として、これまでどのような役割を重視してこられましたか。

浅野:
社外取締役の役割は、経営陣に代わって意思決定を行うことではありません。これまでの経験を活かしながら、「本当にこの方向で良いのか」を問い続けることです。例えば、私は旭化成での経験から、事業の統合やシナジー創出の重要性を実感してきました。ダイセルでも、ポリプラスチックスの統合などについては、積極的に意見を申し上げてきました。また、新しいことを始めるだけではなく、必要であればやめる決断も重要です。三つ新しいことに挑戦するのであれば、一つはやめる。そのくらいの覚悟がなければ、経営資源は分散してしまいます。そのことはよく取締役の皆さんにお伝えしています。
小松:
私も方向性としては同じ認識です。就任後の数年間を振り返ると、当社では事業ポートフォリオの見直しを着実に進めてきました。一方で、大型投資案件では計画通りに進まなかったものもありました。例えば一酸化炭素プラントやCOC樹脂プラントについては、「どう立て直すか」だけではなく、「続けるべきか」「撤退も含めて検討したのか」という視点から議論しました。過去にどれだけ投資したかではなく、これから企業価値を高められるかどうか。その視点で判断することが重要だと思っています。
浅野:
その前提として大切なのは、「なぜ計画通りに進まなかったのか」を徹底して検証することです。技術面だけではなく、投資判断やリスク認識も含めて原因を分析し、次に活かしていく。そうした積み重ねが経営力につながります。
小松:
私たち社外取締役の役割も、そこにあります。問題が起きたときに原因を整理し、リスク管理やモニタリングの仕組みが十分だったのかを確認する。そして、その経験を次の投資へ確実につなげるよう提言していくことです。最終的に判断し、実行するのは執行側です。しかし私たちは、外部の視点から率直に問いを投げかけ、企業価値向上につながる意思決定を後押ししていきたいと考えています。
社外取締役 浅野 敏雄

Q. 社外取締役として、現在の取締役会やガバナンスをどのように評価されていますか。

浅野:
取締役会の実効性という点では、かなり高い水準に達してきていると認識しています。社外取締役が率直に意見を述べても、それに対して経営陣からの抵抗はありません。真摯に耳を傾け、議論が行われています。ガバナンスという観点では、より長期的な人事制度や組織のあり方など、根幹に関わる議論について、今後さらに深めていく余地があると考えています。
小松:
取締役会の議論という点で、当社の取締役会では、社外取締役も活発に発言していますし、社内取締役の皆さんも、その意見をきちんと受け止めてくださっています。すぐに実行できることもあれば、制度の見直しのように時間がかかることもありますが、着実に経営へ反映されていると感じています。私たちの役割は、執行のやり方を細かく指示することではありません。重要なのは、提言したことがその後どうなったのかを継続的に確認し、必要に応じて問い続けることです。そうしたモニタリングを積み重ねることが、取締役会の実効性を高め、ガバナンスの向上につながるのだと考えています。

Q. 中期戦略『Accelerate 2030』では、共創やM&A、新規事業の育成などが掲げられています。この新しい中期戦略に、どのような期待をされていますか。

浅野:
期待は明確です。成長領域として位置付けたテーマの中から、一つでも二つでも大きく成長する事業を生み出していくことです。ダイセルには素材技術、生産技術、加工技術など、多様な強みがあります。それらを組み合わせ、新しい市場を切り拓いていくことが、新中期戦略の大きなテーマになると思っています。
小松:
加えて、新しい成長領域では、当社単独で進めるだけではなく、共創やM&A、ジョイントベンチャーなど、様々な選択肢を活用していくことが重要になります。そのためには、競合と比べた強みだけではなく、「パートナーに何を提供できるのか」という視点も必要です。これまでとは異なるスキルや考え方を持ち、新しい価値を一緒に創ることができる会社になることが求められます。
浅野:
一つの素材だけでは解決できない課題も、異なる技術を組み合わせることで新しいソリューションが生まれます。社内だけでなく、社外の技術や知見も取り込みながら、新しい価値を創り出していくことが重要です。
小松:
新規事業に対しては、考え方を変える必要があると思っています。小さな事業を積み重ねるだけでは、会社全体の成長には限界があります。最初から大きな市場、大きな事業にしていくことを見据え、その実現に必要な経営資源を集中させることも大切です。研究開発には多くの種があります。その一つひとつを「どうすれば大きな花を咲かせられるか」という視点で事業を育てていく。その発想が、『Accelerate 2030』の実現には欠かせないと思っています。
浅野:
私もそう思います。ダイセルには、技術、人財、そして改善を積み重ねる企業文化という強みがあります。それらを活かしながら、新しい市場や事業へ挑戦していく。その積み重ねが、『Accelerate 2030』の実現につながるのではないでしょうか。

Q. 資本効率を重視した経営が進められています。ROICをどのように評価し、今後どのような経営が求められるとお考えですか。

浅野:
ROICに焦点を当てることは、現在の当社にとって非常に重要だと思っています。ただ、ROICを上げることだけを考えるのであれば、新規投資をやめれば数字は改善します。しかし、それでは将来の成長はありません。重要なのは、資本効率を意識しながらも、10年後の成長につながる投資を続けることです。そのバランスをどう取るかが、経営の難しさだと思います。
小松:
資本市場の観点からも、ROICを高めることは重要ですが、それだけが目的ではありません。資本コストを上回る収益を生み出しながら、持続的な成長につながる投資を続けられるかが問われています。私は、ROICを重視することを通じて、社員一人ひとりがバランスシートやキャッシュ・フローまで意識する会社になっていくことに期待しています。
浅野:
また、ROICを高めるためには部門ごとの最適だけでは十分ではありません。新規事業への投資や既存事業とのバランスなど、会社全体として最適な資源配分を考えていく必要があります。
小松:
その点は非常に重要ですね。例えば在庫を減らせばROICは改善しますが、それによって販売機会を失ってしまっては意味がありません。部門ごとの最適ではなく、全社最適という視点で議論していくことが必要です。また、既存事業と成長事業では求められる役割も異なります。全てを同じ基準で評価するのではなく、それぞれの役割に応じた資本配分を行うことが重要です。
社外取締役 小松 百合弥

Q. 持続的な成長を実現するために、人財や組織はどのように変わっていく必要があるとお考えですか。制度や育成だけでなく、組織風土や企業文化も含めて、お聞かせください。

浅野:
ダイセルの強みは、以前から「人」を大切にしてきたことだと思っています。その積み重ねが、会社の安定感や一体感につながっています。一方で、それだけでは十分ではありません。新しい事業を育てるためには、新しい人財や新しい考え方を積極的に取り入れていく必要があります。また、若い人にもっと挑戦する機会を与えてほしいですね。役割を任せ、経験を積ませることで人は成長します。人事制度も含め、これまでの良さを残しながら、時代に合わせて変えていくことが求められるのではないでしょうか。
小松:
私も、若手や社外から加わった人財が力を発揮し、多様な考え方を自然に議論できる組織をつくることが、これからの競争力につながると思います。組織に異なる価値観や経験を持つ人財が加わることで、新しい発想や新しい成長の機会が生まれます。リスクを恐れず、新しい挑戦に取り組める環境をつくること。そして、若い人や新しい人財が、その力を発揮できる組織へ変わっていくことが、当社の持続的な成長につながるのではないでしょうか。

Q. 最後に、2030年度に向けてダイセルが持続的に成長していくために重要なことは何でしょうか。また、社外取締役として、どのような役割を果たしていきたいとお考えですか。

浅野:
どんな事業も、いつか競争環境は変わります。だからこそ、今うまくいっている事業に満足するのではなく、常に次の成長へ備え続けることが重要です。その一方で、成長への挑戦だけではなく、必要であればやめる判断も含めて経営は考えなければなりません。そうした視点も含め、社外取締役として率直な意見を伝えていきたいと思っています。また、人を育て、新しい価値を生み出し、社会課題の解決に貢献する会社として、ダイセルがさらに成長していくことを期待しています。
小松:
私は、社外取締役の役割は、資本市場や外部の視点を経営へ届けることだと考えています。機関投資家はどのように考えるのか、市場はどこを見ているのか。そうした視点に加え、投資、契約、知財、リスク管理など、これまでの経験を活かしながら、経営陣と率直な議論を続けていきたいと思っています。もちろん、実際に経営を行うのは執行側です。私たちは、外部の視点から必要な提言を行い、経営陣の意思決定を後押しすることが役割です。
浅野:
ダイセルの強みをさらに伸ばし、変えるべきものは大胆に変え、守るべき価値は守り抜く。社外取締役として、その挑戦を支える伴走者でありたいと考えています。