誘電正接0.001未満を実現-世界最高水準の低誘電特性材料を発見 ~次世代高速通信(6G)・人工知能(AI)に貢献する回路基板材料の新展開~
株式会社ダイセル(本社:大阪市北区、代表取締役社長 榊 康裕)は、早稲田大学 理工学術院の小柳津研一(おやいづけんいち)教授および渡辺清瑚(わたなべせいご)次席研究員らの研究グループと共同で、誘電正接※1 0.001未満という極めて低い損失特性を持つ新規低誘電特性材料の開発に成功しました。
硫黄原子と酸素原子を交互に配列する分子設計にも拡張し、170GHzという高い周波数※2のミリ波帯※3でも安定した低誘電特性を維持できることが実証されました。
近年、モノのインターネット (IoT※4) や人工知能 (AI) の急速な発展に伴い、多量のデータを高速かつ高品質に伝送する技術への需要が一層高まっています。しかし、情報通信機器の回路基板に用いられる電気絶縁材料 (低誘電特性高分子材料) は、回路基板に流れる周波数が高くなるとともに伝送損失※5の増加を引き起こし、発熱によるエネルギー損失や品質劣化を招く課題を抱えています。この課題解決のために、誘電正接の低い材料が必要となっています。
本研究ではポリ(フェニレンスルフィド) (PPS) 誘導体という構造に着目し、高周波電気信号への応答性を大幅に抑制することで、従来材料を凌駕する世界最高水準の低誘電特性を実現しました。
本材料は、0.001未満の誘電正接を実現しており、第6世代移動通信システム(6G)の実現に向けた高速・大容量・低遅延通信を支える回路基板材料として、また、AIサーバーなどの高速信号処理が求められる電子機器への応用が期待されます。
本研究は、科学雑誌『Communications Materials』(2025年8月16日7時:日本時間 同8月16日)に掲載されました。
論文情報
雑誌名:Communications Materials
論文名:Poly(phenylene sulfide) derivatives as ultralow dielectric loss materials with stable frequency response
執筆者名(所属機関名):Seigo Watanabe1,2, Shuma Miura2, Tomohiro Miura2, Yoshino Tsunekawa2, Daisuke Ito3, Kenichi Oyaizu1,2,*
*:責任著者
1早稲田大学理工学術院総合研究所 2早稲田大学先進理工学研究科応用化学専攻 3株式会社ダイセル
DOI:10.1038/s43246-025-00917-w
今後の展望
本成果では、極めて低い誘電正接を示す有機材料の分子設計を初めて実証しましたが、その下限がどこにあるのかは未知数です。今後は、ポリ(フェニレンスルフィド) (PPS) 誘導体の構造を部分的に改変した高分子や、他の硫黄含有ポリマー、さらには架橋高分子にも対象を拡張し、高分子材料が到達し得る低誘電特性の限界を追究したいと考えています。
当社では、本材料を最先端の電子材料分野に応用できるよう、今後もさらなる研究を進め、人々の「便利・快適」な生活に役立つ製品開発に努めてまいります。
本件に関し、早稲田大学と共同でのリリースを発信しております。研究内容の詳細は、以下をご参照ください。
早稲田大学との共同リリースへのリンク:https://www.waseda.jp/inst/research/news/82323
用語解説
※1 誘電正接
外部から交流電場が加わった時に、エネルギーが熱として損失する程度を表す指標。極性基や運動性の高い官能基が電気信号に応答し、局所的に運動することが損失の原因とされている。回路基板に用いる高分子材料の場合、誘電正接は低い方が好ましい。
※2 周波数
1秒間に電波が振動する回数。周波数が高いほど、より多くの情報を伝送できる。
※3: ミリ波帯
波長が1~10mm、周波数※3が30~300GHzの領域の電波。
※4: IoT(Internet of Things モノのインターネット)
コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うことや、それを実現する技術を指す。
※5 伝送損失
回路基板中を流れる電気信号が減衰する度合い。周波数の1乗、誘電率※6の平方根、誘電正接※1の1乗に比例する。
※6 誘電率
外部から電場が加わった時に、電子が偏る程度を表す指標のこと。回路基板の配線幅や配線長の設計に影響があり、誘電率は3前後であることが多い。
<本件に関するお問い合わせ先>
株式会社ダイセル 研究開発本部 事業創出センター 担当:石川慎介 伊藤大祐
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